今からちょうど100年前の大正時代、
世の中の先端を生きていた女性と、彼女らを取り巻く男たちが紡ぎだす文学、そして政治活動という危ういバランスの上に載っていた世界がありました。
モラルやそれまでの概念に阻まれてもぶつかって進んでいった伊藤野枝の人生を軸に、その時代を描いた瀬戸内寂聴の物語を、柴門ふみが漫画化していました。
大正時代をベル・エポックという人たちがいる
ベル・エポックとは、フランス語で「良き時代」という意味らしいです。
第一次世界大戦までの、パリが反映した華やかな時代、消費文化が発展し、歌や芝居、絵画などがその経済的発展に後押しされるように花開いた時代をさしており、
それを、のちの苦難に満ちた時代から振り返って称していた言葉でした。
大正時代を、そんなフランスの繁栄に重ねてベル・エポックと呼ぶ人がいますが、
現実は思想弾圧やテロ、そして自立からは程遠い状況に置かれる女性たちの苦労が渦巻く閉塞感におおわれた時代だったのです。
そんな中でもめげることなく
『欲しい物は欲しい!』
『やりたいことはすべてやる!』
という意思にあふれた少女がいました。
伊藤野枝、短くもずぶとく、あきらめない生を生きた女でした。
だって『好き』なの!
野枝は九州の没落した家に生まれたのですが、東京への憧れを胸に猛勉強して上野高等女学校に入学します。
その熱意の表れとして成績は見事なものでしたが、野枝はそこで出会った教師の辻潤と良い仲になり、二人は学校を追われてしまうのです。
辻の家に転がり込んだ野枝でしたが、事情が事情ゆえに辻の再就職はなかなかうまくいかず、
そんな彼をしり目に、野枝は自らの行く先を平塚らいてうらの主催する雑誌青鞜(せいとう)に見出し、急速に傾倒していきます。
平塚らいてうや野枝は『新しき女』と呼ばれました。
それは揶揄でもあったのです。
家や親に縛られることもなく、自立して働き、誰にも邪魔されずに恋愛を謳歌する、
そんな生き方は、きっと野枝の目にも眩しく、キラキラしていたのでしょう。
野枝は、辻との間に二人の子供をもうけますが、
目の前に現れた男、大杉栄に目を奪われ、心をわしづかみにされて辻との生活を捨ててしまうのです。
そのために誰かを泣かせることになろうとも
野枝は『好きな人ができた』と悪びれることもなく辻に言い、結果的にその家を出奔しますが、
大杉は野枝だけを愛するわけではありませんでした。
当時妻がおり、サロメと呼ばれた恋人もいて、そこに野枝が加わることで状況は悪化し、
ある日、サロメが大杉を刺すという事件まで起こります。
大杉はアナキスト(無政府主義者)として知られるようになり、身に危険が及ぶこともありました。
野枝はそんな日々の中で最終的には大杉の妻(内縁)の座を勝ち取り、5人の子供をなし、はた目には幸せをつかんだかのように見えたのですが。
運命の時が迫ります。1923年。
9月1日の関東大震災、そして、その半月後に野枝は、大杉を狙った憲兵隊大尉の甘粕正彦らの手によって彼ともども虐殺されてしまうのです。
まとめ
賢くて奔放だった野枝は、自分にぶつかってくる逆風にもめげることなく、やりたいことをやり、欲するものは決して諦めませんでした。
大杉を取り巻く状況もじわじわと悪化してきましたが、
自分らは悪いことはしていない!
と胸を張って生きていたのです。
そんな彼らが迎えた最後は無残なものでしたが。
この作品の最後にちらりと描かれているモダンな洋装の野枝と日傘が、彼女の人生を象徴している気がしてなりません。
この本を読んだ時に、
野枝と瀬戸内寂聴さんは似てるなぁ
と思ったのです。
そのパワーや求めるものがシンクロして、この本の中の野枝はより一層彼女らしい姿で活き活きと描かれているのだと思います。
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