「ひでおと素子の愛の交換日記」は、
1984年の7月に新井素子と吾妻ひでおによって角川書店から刊行された
コラボレーション書籍になっております。
角川書店が1980年代に発行していた
カルチャー誌「バラエティ」に、
1981年の4月号から1986年の3月号まで連載されていたものが
全3巻で単行本化されています。
小説家・新井素子の歩み
本作品集の中で文章を担当している新井素子は、
1960年生まれのSF小説家です。
高校2年生の時にデビューを果たして
「SF界のプリンセス」と称えられながら、
次々と新作を発表していく活躍ぶりが勇ましいです。
豊島区内に立地する某有名大学に4年間通いながらも、
池袋の本屋さんで開催されていたサイン会の帰りには
迷子になってしまう方向音痴ぶりが可愛らしかったです。
生まれ育った街である東京都練馬区を
1歩も出たことがなかった彼女が、
ある日突然にニューヨークへ旅立ってしまう行動力には
驚かされました。
ぬいぐるみが大好きで
バッグやカバンなどの身に付けるものには
まるっきり興味がない、
プライベートな一面も垣間見ることが出来て
微笑ましかったです。
マンガ家・吾妻ひでおの歩み
吾妻ひでおはこの本の中で
イラストを担当しています。
1950年に北海道で生まれて、
10代の頃から板井れんたろうのアシスタントを務めつつ
マンガ家としてデビューしていきます。
「不条理日記」や「パラレル狂室」を始めとするSFタッチの作品から、
「チョコレート・デリンジャー」などのナンセンスなギャグまで
幅広いジャンルの作品を発表しています。
連載が多忙になっていくにつれて
健康を害してしまうことも多く、
1980年代には低迷期を迎えていたことが伝わってきました。
豊かな才能に恵まれながらも、
次第に創作意欲が薄れていく姿には
一抹の寂しさもありました。
本書の中で絶妙なコンビネーションを披露した、
新井素子との友情は現在でも続いているようです。
ふたりの変わらぬ友情
SF作家として新たな1歩を踏み出していこうとする新井素子と、
マンガ家として深刻なスランプに陥っている吾妻ひでおとの
コントラストが浮かび上がっていきます。
年齢も境遇もまるっきり異なるふたりの間を繋いでいく、
編集者の秋山協一郎の存在が大きく感じました。
決して楽屋オチに終わることなく、
読者参加型の犯人当てクイズや短編小説コンテストなどの
遊び心が満載でした。
当時としては手書きの葉書が主流になり、
読者から受け取った1枚1枚に丁寧に目を通してワープロ打ちしていく
真摯な様子が思い浮かんできました。
インターネットやSNSでの交流が
当たり前になっている今の時代からすると
手前暇かかりますが、
懐かしくもあり人間的な優しさがありました。
ひでおと素子の愛の交換日記 まとめ
友人やクラスメイトとのコミュニケーション能力に思い悩んでいる、
若い世代には是非とも手に取って頂きたいと思います。
小説を読むのが好きな人ばかりではなく、
マニアックな漫画に造詣の深い方にもお勧めな1冊です。