『鋼の錬金術師』で有名な漫画家、荒川弘さんは北海道帯広の出身で、農業高校を経て実家の農場を手伝っていた、という異色の経歴を持っていをます。
この『百姓貴族』はその幼少期や農業高校時代、さらに親と一緒に畑と酪農の作業をしていた時代のこと、さらに今の農業の実態と事情などを漫画らしい描写を加えて語っています。
ブラック企業も裸足で逃げ出す労働環境
そういえば、この本が出たばかりの頃には『ルネッサーーーーンス!』で知られる芸人さんたちが大ヒットを飛ばしていたのだな、と思われる描写が多いのですが。
そこから『貴族』のタイトルと、作者を表している牛さん(彼女の作品では全編通してこのキャラクターを使っているのですが)が見事な融合を果たしています。
以来数年、ずっと追いかけているのです。
私たちは、普段何も考えず北海道で作られた食料を食べているのですが、それが市場に出回るためにこんなに苦労をされているんだ、という事実。
さらに、ブラック企業も真っ青な労働環境ではあっても、プライドをもって家族でそれをこなしているという現状。
それ、笑っちゃっていいのかなぁ、と思わなくもないのですが。これを文章にして訴えたら、きっとドン引きされて終わるだけかもしれない、という話をぐいぐいを読ませる画力と構成は素晴らしいと思います。
美 味 し そ う !
加熱されていない、とれとれの牛乳や、近所の農家さんたちと物々交換で出回るさまざまな農作物。
果ては、ハンターさんたちが狩猟のおすそ分けとして玄関先に「置いといたから食べてねー!」と転がしている鹿や様々な動物の、まるで贅沢なジビエのような食生活。
お金にはなかなか結び付かないけど、心はとても豊か!というのは本当だと思います。
そんな、美味しいものをたくさん知っている荒川さんが描く食べ物は、どれもにおいまで想像できそうな描写で、とても美味しそう!
しかし、それを食べるために日々行っている農作業の過酷さは凄いことになっています。
冬になると常にマイナスを示すような気温と豪雪、そして、近年は北海道にも到達する台風の災禍など。
そんな『北海道の環境あるある』を交えながら頑張っている農家の暮らしは、いとおしくもあり、そして拝みたくなるほどに尊いものだと思うのです。
画家を目指した彼女が、それでもやっぱり愛する北の大地
話が進むにつれて、荒川さんをとりまく状況も変化を遂げてきています。
漫画がヒットを飛ばし、さらにお子さんが生まれ、他では描かないご家族の描写も増えてきました。
そんな忙しい生活の中でも故郷の大地に思いをはせて、この作品を描き続けているのです。
さらに、この流れから『銀の匙』という、彼女の農業高校体験をたっぷりと織り込んだフィクションの学園ものの作品を描いており、そちらはより一層リアルな描写で農業にかけようとする若い世代の物語となっています。
両方を合わせて読んでみて、初めて、荒川さんが描きたい、そして読んで欲しい北海道の姿があるのではないかと思うのです。
でも、軽妙なテイストで、私たちに問題を投げかけたり、情報を与えてくれるこの百姓貴族の方向性は、このまま保って欲しいですね。
まとめ
真っ白な雪に覆われた畑に、長靴で足を踏み入れて巨大な絵を描いてみるとか。
短毛種の猫が冬には長毛種になるほどに極寒の、厳しい自然環境であったとか。
道民でもあまり知らないだろう北の大地の姿が牛さん(作者)の目を通して、ある意味赤裸々に、そして面白おかしく描かれています。
まぁ、一度読んでみて!
絶対面白いから!
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