マンガ「混乱列島」は、1977年の3月に永井豪によって朝日ソノラマから刊行された作品集になります。
もとになっているのは筒井康隆によるSF文学になり、15個の短編小説と1篇の長編シナリオが劇画化されている作品になります。
マンガを読んでみた個人的感想
お祭り騒ぎやギャンブル好きにはたまらない「パチンコ必勝原理」から、本作品集は幕を開けていきます。
荒唐無稽なオチの中にも、賭け事の危険性への痛烈なメッセージや批判が込められていて味わい深かったです。
「地下鉄の笑い」は50年以上前の時代設定ですが、メディアに盲目的に踊らされていく大衆の愚かさは今の時代に繋がるものがありました。
少年時代の終わりから青年期への移り変わりが繊細に描き出されていく「妖精」には、年甲斐もなくホロリとさせられてしました。
人間の欲深さが巧みに映し出されていく「超能力」から、どこまでも純真無垢なファンタジーとして微笑ましい「姉弟」までバラエティー豊かなラインナップになっていました。
1番に良かったセリフや言葉
全編を通して過激な笑いが満ち溢れている中でも特に印象に残っているのは、「毒や薬になるになるものが書けない時勢なのだからしかたがない」というセリフでした。
この作品集に収められている「佇むひと」という短編に登場する言葉になります。
ありとあらゆるメディアや言論の自由が国家によってよってコントロールされていき、逆らう人たちは植物化されて「人柱」として植えられてしまうディストピアが映し出されていきます。
嫉妬深い密告によって、主人公の美しい妻が変わり果てた姿になる結末には胸が痛みました。
いつの間にか国会で共謀罪が成立していき、知らないうちに監視の目が張り巡らされてしまった現在の日本の社会との不思議な共通点があります。
永井豪と筒井康隆の魅力
文学界の異端児とマンガ界の鬼才が、最初で最後の貴重なコラボを披露しているのが嬉しいです。
「たぬきの方程式」は、原作のブラックユーモアたっぷりとしたストーリーが過激なタッチで描き出されていて圧巻です。
永井豪が過去にその作風によってPTAから「有害図書」の烙印を押された、ほろ苦い過去を思い浮かべてしまいました。
表現の自主規制によってマスコミや出版社から絶筆に追い込まれてしまった、原作者の筒井康隆にも重なるものがありました。
マンガ家と小説家にとって表現方法を奪われることは、何よりも恐ろしいことなのかも知れません。
書くことでしか自らの存在を世に示すことが出来ない愚直な生きざまと、変わることのないふたりの絆が感動的でした。
まとめ
「月刊漫画ガロ」や「COM」などのマイナーなイメージの漫画雑誌に慣れ親しんだ世代の人たちには、お勧めな作品になっています。
普段はマンガに興味のない活字派の方にも、是非とも手に取って頂きたい1冊だと思います。