内田康夫原作の浅見光彦シリーズは各局でドラマ化されており、この『平家伝説殺人事件』も繰り返しドラマ化されてきました。
僕もその度に毎回欠かさず見て来たので、当然ストーリーも犯人が誰であるかも知っていましたが、それでも作り手側の演出やロケ先の風景にはいつも目を見張るものがあって楽しめました。
今作が今までに違ったところ、面白かったポイントを紹介します。
幻想的な導入部分はさすがテレパック版!
TBS系列の浅見光彦シリーズは放送開始当初から一貫してテレパックが制作を担ってきましたが、他局の浅見光彦シリーズと異なる点はなんといっても視聴者を幻想の世界へと引き込む導入部分の演出といっても良いでしょう。
今作では、平家の落人伝説で知られる高知県の藤ノ川を訪れた浅見光彦。
壮大な四万十川が引きの映像で撮影(ドローンを使用)された場面は息を呑む美しさ。
それに続いて、今度は森の中で源氏の追手から逃れた平家の落人と十二単姿の姫君。
しかしそれはすべて浅見の見る幻想だった、という設定。
旅情ミステリーならではの怪しげで美しくもある雰囲気を存分に味わわせてくださいます!
僕はテレパック版浅見シリーズのそういう演出がたまらなく好きです。
ヒロイン稲田佐和役の着飾らない可愛らしさが原作の印象を壊さない!
数々映像化されてきたドラマなので、ヒロイン 稲田佐和が今回はどのような描かれ方をされるのかも毎回注目されたところですが、今作の佐和役は吉川愛さん。
彼女のまだ子供っぽさの残る雰囲気といい、ドロドロとした大人の世界をまだ知らない感じといい、原作の稲田佐和がそのまま飛び出してきたような印象を受けました。
あの雰囲気は女優なら誰でも意識して表現できるものだろうか?
きっと天性のものがあるにちがいないと思いました。
稲田佐和という役の設定は、平家の血を受け継ぐ末裔とのことですが、笛を吹くシーンは美しく、どこか切なくて印象に残りました。
また原作にはない、新たに付け加えられた母親がある青年と駆け落ちしようとして失敗、青年と命を絶った、という設定も、ヒロインの寂しげな美しさに深みを添えているように思いました。
原作とはちがった見どころ、人間ドラマに重きを置いた新設定!
これは浅見光彦シリーズに限ったことではありませんが、最近の二時間ドラマは原作とは異なった設定を多く見かけるような気がします。
以前は原作を忠実に再現したトリックが取り入れられ、それを名探偵の主人公が鮮やかな推理で解き明かしていく、という醍醐味があったように記憶していますが、いまはそれより、人間ドラマを重視しているという印象。
夫の死により多額の保険金を手に入れた多岐川萌子という女。
原作や過去のドラマでは正真正銘の悪女という描かれ方をされてきましたが、今作では、彼女もまた悩める一人の女性。
やむにやまれぬ事情があって頑なに真相を語らない、という設定に変更。
それが人間ドラマをより色濃く演出していると感じました。
また原作では一番のポイントとなる密室トリックも、今作では無し。
原作ファンとしては肩透かしをくらった感は無きにしも非ずですが、人間ドラマとして楽しむなら、逆にこれはこれで正解なのかな、と思います。
人間ドラマに本格トリックはかえって邪魔かもしれません。
まとめ
原作を忠実に再現した設定もあり、守るべき設定を守り、かといって同じ手法では攻めてこない。
新しい演出やキャラクターの設定づくりに挑戦していくところは、制作サイドの意地のようなものを感じました。
他局ではシリーズが終わってしまったようなのですが、TBS版の新・浅見光彦シリーズはまだ始まって三作が終わったばかり。
平岡裕太演じる新・浅見光彦シリーズの活躍に、今後も目が離せません。