小説「みんな元気。」は、2004年の10月30日に舞城王太郎によって新潮社から刊行された短編小説集になっております。
文芸雑誌「新潮」に掲載された4つの短編に、書き下ろしの「DeadforGood」を加えて単行本化されています。
表題作のあらすじと感想
ある日の真夜中突然に主人公の姉が空中をホバリングし始める「みんな元気。」から、この作品集は幕を開けていきます。
最初は15センチ程度を浮遊していたゆりに、妹の枇杷の平穏無事な暮らしはかき乱されていきます。
今時の小学6年生らしい大人びた振る舞いの中にも時折見え隠れする、純真無垢な枇杷の素顔が可愛いらしかったです。
強風に乗って空からやって来た謎めいた一家の長男と、ゆりは取り替えっこをさせられてしまいます。
やがては離ればなれになっていく姉や両親たちのために、枇杷自身も空を飛ぶ決意を固めていくのでした。
SFタッチの荒唐無稽なストーリー展開の中にも、ステップファミリーなどの新しい家族の在り方が描かれていて考えさせられました。
謎多き著者のプロフィール
著者の舞城王太郎は、本作品集の背表紙によると1973年の福井県生まれとなっています。
2001年に「煙か土か食い物」でデビューを果たした後は、2003年の三島由紀夫賞に輝いた「阿修羅ガール」で話題を集めていきます。
芥川賞候補となった「好き好き大好き超愛している。」を選考委員から酷評されても屈することなく、その後も次々と新たなジャンルに挑戦していきます。
その素顔から性別までが謎に包まれている覆面作家になり、この本を読んでみてその正体に迫っていくのも面白いです。
本書収録の「矢を止める五羽の梔鳥」や「我が家のトトロ」では一人称の「僕」を違和感なく使いこなしていますが、表題作では今時の女子のリアルな本音が吐き出されていました。
特に良かったセリフや言葉
随所に散りばめられているユーモアと過激な表現の中でも1番に印象に残っているのは、「優しさは余裕から生まれるんだからね。」というセリフでした。
この短編集を締めくくる「スクールアタック・シンドローム」に登場する言葉です。
新宿の大手家具店で20万円を払って購入したソファーの上で、一人洋画のDVDを鑑賞したり漫画を読み耽る主人公・三田村の不甲斐なさが笑いを誘います。
仕事を失って妻と子供にも逃げられた30才の男が、ひとり調布市小島町のマンションのリビングに寝転んでいる様子には一抹の哀愁が漂っていました。
家族との関係性や自分自身の将来などの全てに対して投げやりになっていた三田村が最後に選んだ、意外な行動には驚かされました。
まとめ
5つの物語に登場する5人の主人公のうちに、あなたにそっくりなキャラクターが見つかるはずです。
エンターテイメントから純文学までバラエティー豊かなラインナップになっているので、普段は活字メディアに馴染みがない方にもお勧めです。