小説「楽園に間借り」は、2007年の8月31日に黒澤珠々によって角川書店から刊行された長編文学になっております。
1982年生まれになる若手の女性小説家が、若干25歳の時に発表して文壇に賛否両論を巻き起こした作品になります。
ストーリー紹介(ネタバレなし)
吉井百輔は仙台で生まれ育って、都内の大学へと進学します。
就職活動では面接会場へとラバーソウルを履いて乗り込んでいく世間知らずぶりを発揮して、門前払いを喰らってしまいました。
デパートでリクルート用の革靴を探していた最中に、偶然にも看護師の梨花と出逢っていき投合します。
そのまま梨花が借りている杉並区内に立地する1Kのアパートにずるずると居座って、27才になった現在でも百輔は定職に就く気がありません。
そんなある日、故郷から結婚が決まった百輔の姉に当たる千雪が訪ねてきました。
疎遠になっていた祖母が亡くなったことによって、1000万円もの遺産が百輔の懐に転がり込んできます。
思わぬ幸運で、梨花との関係も変わっていくのでした。
本を読んでみた個人的感想
主人公の吉井百輔の、怠惰でお気楽な日常生活の風景がユーモアセンスたっぷりとしたタッチで描かれていて味わい深いものがありました。
インターネットを通じて知り合った無職の青年たちが一堂に会して、「オフ会」を開催するシーンが面白かったです。
お付き合いをしている女性からお金を引き出すテクニックを、恥ずかしげもなく競い合う様子には笑わされました。
救い難いような人生を送っている人たちの常識はずれな振る舞いにも、どこか憎めないものがあり不思議な親近感が涌いていきます。
一見するとナンセンスなギャグや悪ふざけが強すぎるストーリーの中にも、時折ニートや引きこもりを始めとする社会問題を鋭く捉えていて考えさせられました。
特に良かったセリフや言葉
本作品の中では数多くの迷言が飛び交っていますが、1番に印象に残っているのは
「女の人が必死に漕いでいるボートの隅にちょこんと座っている」
というセリフでした。
東京都内で不甲斐ない生活を送っている百輔に対して、姉の千雪が投げつけた言葉になります。
何の疑問も抱くことなく彼女から受け取ったお金で暮らしていた百輔が、初めて自分自身の意志によって行動を起こしていく場面が勇ましかったです。
思わぬ遺産相続によって変わり始めていく百輔と共に、徐々に梨花との間に微妙な距離感が生まれていく展開が心に残りました。
すれ違いばかりで上手くいかない不器用な男女の恋愛模様と、それぞれが歩んでいく新しい道のりにはホロリとさせられました。
まとめ
この本を読んだことによって、恋愛に対する男女の価値観の違いが伝わってきました。
異性とのコミュニケーション能力や、夫婦や恋人などの身近な人たちとの関係性について思い悩んでいる方には是非とも読んで頂きたいです。