小説「第六ポンプ」は、
2012年の2月10日にパオロ・バチガルピによって早川書房から刊行された
SFアドベンチャーなっております。
日本での翻訳が初めてとなる5篇の作品を含んだ、
若手の小説家による第一短編小説集になります。
著者の魅力的なプロフィール
パオロ・バチガルピは、1972年に
アメリカ中西部に位置するコロラド州で生まれました。
ヒッピー的な気質がある両親に振り回された幼少期を送り、
引っ越しと転校を繰り返していきます。
オハイオ州のオバーリン大学で東アジア学を専攻したことがきっかけになって、
次第に東洋のサブカルチャーに傾倒していきます。
この短編集に収められている「ポケットのなかの法」では
四川省の成都がストーリーの舞台に設定されていて、
若き日の中国への留学経験が活かされていました。
「フルーテッド・ガールズ」は
日本の秋葉原の電気街やフィギュアを思わせるような描写が満載になり、
親近感が涌いていきます。
西洋にも東洋にも染まらない、
不思議な世界観が魅力的でした。
本を読んでみた個人的感想
ヒューゴー賞やネビュラ賞などの
名だたるアメリカSF界の文学賞の候補にも選ばれた「砂と灰の人々」では、
人類以外の生態系が破壊しつくされた世界が
リアリティー溢れるタッチから描き出されていきます。
環境問題を真摯に取り上げていく専門紙
「ハイ・カントリー・ニュース」の編集部に務めている著者らしく、
現実への危機感を介して未来のあり得るべき姿を
模索していくスタイルに惹き込まれていきます。
表題作の「第六ポンプ」のような、
出世率が低下していき痴呆化が広く浸透した人類の描写には
思わずゾクリとさせられました。
食品添加物や遺伝子組み換えに対する危険性を痛感すると共に、
本当の意味での豊かな暮らしについても考えさせられました。
1番に良かったセリフや言葉
随所に散りばめられている味わい深い会話や
忘れ難いメッセージの中でも特に印象に残っているのは、
「知識はいつでも諸刃の刀だ。」
というセリフでした。
故郷の砂漠の村に別れを告げて都市へと向かう青年を主人公にした、
「パショ」という短編の中に登場する言葉です。
テクノロジーの急速な発達によって
血の繋がりや他者とのコミュニケーションが失われていく今の時代への、
痛烈な批判が込められていました。
遥か未来の世界が映し出されていく物語の中にも、
何処かノスタルジックな人間らしさを感じることが出来ました。
最先端の技術を正しく使えば
コンピューターのスクリーンからでも優しさを伝えられるという、
著者の純真無垢な思いには胸を打たれました。
まとめ
古今東西のSF文学を読破した方たちには、
是非とも手に取って頂きたい1冊だと思います。
「ブレードランナー」や「攻殻機動隊」を始めとする、
近未来をテーマに扱った映像作品が好きな人にもお勧めになっています。