小説「子どもを救え!」は、
1998年の5月30日に島田雅彦によって
文藝春秋から刊行された長編小説です。
著者にとっては出世作とも言える
「優しいサヨクのための喜遊曲」から、
15年後の世界が映し出されていきます。
ストーリー紹介(ネタバレなし)
かつては理想主義に満ち溢れ
国家権力をなによりも憎んでいたはずの千鳥姫彦。
逢瀬みどりと結婚後に息子と娘を授かり
東京の近郊都市にマイホームを購入し、
小説家として細々と執筆活動を続けていました。
妻との関係はすっかり冷え切っており、
子供たちはほったらかし。
家の外で自由気ままに振る舞い、
怠惰な日々の暮らしを送っていました。
ある日のこと、
近所に住んでいた顔見知りの美しい女性・東条可南子と
彼女のふたりの子供たちが殺害される事件が起きるのです。
そして、
千鳥は不条理な世界へと迷い込んでいき
犯人の意外な正体が明らかになった時に、
千鳥の止まっていた時間の流れも動き始めていくのでした。
本を読んだ個人的感想
郊外で発生した
主婦とその2人の子供たちの殺人事件から幕を開けていく
というブラックユーモアたっぷりとした味わいがあります。
千鳥と愛憎なかばする関係にある
自由奔放な女性の重信リビアの生きざまには
印象深いものがありました。
実在する過激派を思わせるような
インパクトがあるネーミングからは、
革命に憧れながらも挫折していった
若き日の千鳥自身の姿にも重なるものがあります。
誰しもが頭の中で
おおいなる夢を抱きながらも、
現実とのギャップにぶつかり
次第に妥協して人生を歩んでいくようなほろ苦さがありました。
その一方では、
年齢を重ねることによって感じることができる、
ささやかな幸せや何気ない日常の中に隠されているいる
小さなドラマも伝わってきます。
特に良かったセリフや言葉
1番に印象に残っているセリフは、
「物書きにとって、余白は悪夢の始まりだ」という言葉でした。
千鳥が亡くなった可南子の残した日記を手に入れ、
思わず呟くシーンに登場します。
日記帳の空白から、
沈黙を強いられている死者の遺志を受け継いで、
真実をただひたすらに追い求めていく千鳥の奮闘ぶりには
胸を打たれました。
家族との関係やみずからの仕事に対しても
投げやりだった千鳥が徐々に変わり始めていきます。
また、
ソウルから始まりモスクワを中継して、
ニューヨークの街並みを駆け抜けていく
1人のエネルギッシュな旅人が心に残りました。
世界中を旅しながら
見えないなにかを探し続けてきた千鳥が、
最後にたどり着いた場所で見つけた意外な答えには
驚かされるはずです。
まとめ
阪神淡路大震災や
カルト教団による地下鉄襲撃事件など
1990年代の世相が反映されているストーリーは
30代後半の方にはオススメです。
ありきたりな毎日の繰り返しに
退屈を覚えている方たちや、
新しいことにチャレンジしてみたい人にも
ぜひとも手に取っていただきたい1冊だと思います。