荻原浩さんという作家さんをご存知でしょうか?
読書がお好きな方ならご存知でしょう。
私はお名前しか知らなかったのですが、JR東日本の新幹線を利用した時、車内サービス誌「トランヴェール」の連載を読み、
軽快でユーモアのある文章に惹かれてすっかりお気に入りの作家さんになってしまいました(残念ながら現在は連載終了されています)。
荻原さんの作品の魅力が少しでも伝われば幸いです。
リアルな心情描写で綴られる現代版おとぎ話
荻原さんの作品の素敵なところは、ユニークな文体とあらゆる登場人物のリアルな心情描写だと思います。
サラリーマンや子供だけでなく、主婦や思春期女子の心境までリアルに書き上げるのです。
この「金魚姫」で描かれるのは、ブラック企業に勤務する鬱病気味の青年。
同棲していた彼女にも出て行かれ、睡眠薬とお酒に溺れながら
「あと〇時間でまた仕事…」
とカウントする彼の描写は可哀想になるくらい生々しいです。
そんな彼が夏祭りでなんとなくすくった金魚が、なんと美女に変身。
さらにその日を境に仕事まで上手くいくようになるのです。
まるでおとぎ話のような、最近のライトノベルのような設定ですね。
しかしこの美女は重く壮絶な秘密を背負っているのです…。
不思議ちゃん系美女?金魚のリュウがとにかくキュート!
想像を絶するほど重い過去を背負った金魚の美女・リュウですが、人間になっている間の仕草はとにかくキュートです。
訳あって1000年以上前から転生してきたリュウにとって、現代日本の生活は初めて接するものばかり。
テレビを大音量で付けて隣人を怒らせたり、電車に乗ってはしゃいでみたり...。
一番可愛いと思ったのは、テレビで見た新麦のCM(恐らくサントリーの金麦のような感じ)を気に入り、出演女優を真似て
「お、か、え、りー」
と主人公を出迎えるシーンです。
あまりの可愛さに、テレビの音量で怒っていた隣人もコロッと態度を変えてしまいます。
しかも、主人公に迷惑をかけても謝るどころかわがままばかり。
かと思えば、主人公が辛い時にはさり気なく慰めたり...。
そんなマイペースなリュウに振り回され辟易しながら、主人公も徐々に生きる気力を取り戻していきます。
可愛い不思議ちゃんって、いわゆる萌え要素なのでしょうか...。
それにしても荻原さんが描く人外キャラクターは魅力的です。
一見バラバラな出来事が繋がっていく面白さ
仏壇業者で働く主人公は、リュウと出会った日を境に亡くなった人が見えるようになります。
それにより故人や遺族の心に寄り添った営業ができるようになった主人公は業績をどんどん伸ばしていくようになり、やがて社長に一目置かれる存在に。
また、物語を読み進めていくと、主人公とリュウのエピソードの間に突然昔の出来事が挟まれます。
その舞台は大昔の中国だったり、琉球だったり日本の花街だったり長崎だったり…。
人々のそばにいつもいたのは、一匹の琉金。
それがリュウとどう結びつくのかは、終盤まで明らかにされません。
- 主人公の仕事と能力
- 明かされないリュウの過去
- 一匹の琉金
一見バラバラなエピソードが終盤でパズルのように繋がっていく展開が面白いです。
まとめ
「金魚姫」というタイトルからはアンデルセン童話の「人魚姫」が連想されます。
ネタバレになってしまうかもしれませんがこれはただのモジりではなく、この物語はまさに現代版・人魚姫です。
最後は自分より大切なものを選んだ人魚姫と金魚姫。
ハッピーエンドともバッドエンドとも違う結末は美しくもあり悲しくもあります。
ぜひご一読いただきたい作品です。