「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」は、1969年の6月にフィリップ・K・ディックによって早川書房から翻訳刊行されたSF小説になります。
「高い城の男」や「まだ人間じゃない」など、社会的なテーマを扱ってきた小説家の代表作です。
ストーリー紹介(ネタバレなし)
第三次世界大戦終結後の地球上では、放射能の影響によって生きている動物が稀少な存在となっていました。
電気仕掛けの偽物の羊しか持っていない賞金稼ぎのリック・デッカードは、正真正銘本物の動物が欲しくてたまりません。
折しも植民地化された火星から8体の工業用のアンドロイドが逃亡する事件が発生していて、デッカードの担当している北カリフォルニア地区に潜伏中です。
直属の上司に当たるデイヴ・ホールデンが大怪我を負って引退に追い込まれたことによって、俄にデッカードにアンドロイド討伐のチャンスが転がり込んできました。
莫大な懸賞金を首にかけられたアンドロイドと、最新兵器で武装した人間たちとの間で壮絶なバトルが始まっていくのでした。
本を読んでみた個人的感想
誰しもが「情調オルガン」によって、自分自身の喜怒哀楽をコントロールしている近未来の人類が印象深かったです。
「共感ボックス」で世界中のありとあらゆる人種が同時に感情を共有するシーンには、SNSやTwitterの「いいね!」が当たり前となった今の時代に繋がるものがあります。
人間のために製造されたはずのアンドロイドが次第に意思を持ち始めていき、人間自身が心を失っていく展開には皮肉な味わいがありました。
マニュアル化されたプライベートでの生活と上司から与えられていくルーティンワークに対して微塵も疑問を抱くことのなかった主人公のデッカードが、初めて人間的な感情に目覚めて運命に立ち向かっていく場面には胸を打たれました。
1番に良かったセリフや言葉
全編を通して鋭いメッセージと斬新なアイデアに満ち溢れている中でも特に印象に残っているのは、「なぜ戦争が起こったか、また、どちらが勝ったかそんなことをおぼえている人間はひとりもいない。」というセリフです。
ある日突然に権力者たちが始めていく争い事の身勝手さと共に、振り回されてしまう弱者の怒りも込められている言葉でした。
政府によってお墨付きをもらった「適格者」たちが早々と惑星植民地へと旅立っていく中でも、「不適格者」だけが死の灰に包まれた地球を見捨てることが出来ないコントラストには胸が痛みます。
原子力発電所の事故によって住民が生まれ育った街を追われていく、現実の世界の避難区域を思い浮かべてしまいた。
まとめ
1982年にはリドリー・スコット監督によって、2017年にはドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によって「ブレードランナー」のタイトルで映像化もされています。
新旧のふたつの名作映画と合わせて、読破して頂きたい1冊だと思います。