下克上、とはタイトルにありますが、主人公の視点から語られる物語そのものは、そこまで物騒なものではありません。
主人公の性格が大きく影響して、どちらかと言えばハートウォーミングでコメディータッチのストーリーになっています。
この物語の主人公は?
この物語は、現代に生きる本が大好きな一人の若い女性が、死んでしまう場面から始まります。
死因をここで詳しくは語りませんが、一言で表すのならば、本です。
さすがは本好き、と言える死因です。
作中で、本人もこの事には一定の満足を得ていたようです。
本を中心とした生活を送り、そして最期は『本で死ねるなんて』と、少し嬉しそうでもありました。
まだ読んでいない本に対しては、未練がたらたらでしたが。
そんな筋金入りの本好きである主人公ですが、死んでしまっては、そこで物語が終了してしまいます。
ですがこの物語は、終わりません。
むしろここから始まるのです。
死んでしまった彼女は、見知らぬ家の中で、目を覚まします。
壁紙などといった洒落たものの無い、粗末な家の中で。
そこに居た人達から、彼女は『マイン』と呼ばれます。
そう、この物語の真の主人公は、死んでしまった本好きの現代女性では無く、
その死後に彼女の記憶を持って目覚めた、病気がちで身体の弱い幼い女の子――『マイン』なのです。
この物語の基本的な世界観
主人公のマインが暮らすのは、貴族である領主が治める領都の、平民たちが暮らす下町です。
この『貴族』とは、単なる血筋が貴いだけの者達ではありません。
彼等は、その身に魔力を宿し、魔法が使える者達です。
そして魔法が使えない者達が、貴族に支配され、平民として暮らしているのでした。
つまりマインは、魔法のある世界で魔法とは関わらずに生きている身分なのですが、彼女の関心はそこへは向きません。
なぜならば、彼女は筋金入りの本好きなので。
マインとして目覚めた彼女が最初に求めたのは、やはり本でした。
知らない場所ならば、知らない本があるだろう!
といった発想で、家の中を捜索し本を探し回ります。
けれども本は見付かりません。
それどころか、文字が書かれた物すらも見当たりませんでした。
この世界の平民の暮らしは、地球の中世ヨーロッパ相応だったのです。
この世界では、紙は高価で貴重なもの。
文字は貴族様が使うもの。
つまり本とは、貴族だけが所持する高価で貴重な趣向品で、平民には一生縁の無いものだったのです。
序盤のあらすじ、あるいは見どころ
平民は生きている内に本など見る事すら無いのだ
と知ったマインは、絶望します。
彼女は何よりも、本を愛して生きてきたのですから、それは深い深い絶望でした。
求める物が、無い。
普通ならば、諦めるところですが、食事よりも読書を優先するほどに本好きな彼女は、諦めませんでした。
そして決起したのです。
『無いなら作ればいいじゃない!』と。
そうして、虚弱で小さな身体に、本への無尽の愛を秘めたマインは、本作りを開始します。
普通に生活する事もままならないのにも関わらず、周りを巻き込みながら。
初めは、家族。
そしてご近所の子供たち。
さらにその家族たちへと、マインの本への情熱は留まることを知らずに影響を与えていきます。
やがてその流れは、平民の枠に収まり切れず、貴族へも波及し、
その事がマインの運命へと大きな影響を及ぼす事になるのです。
まとめ
突然に死んでしまった女性が、その記憶を持ったままで、異世界にて第二の人生を始める。
これだけならば、よくあるお話ですが、このお話の主人公は、本が好き過ぎる女性でしたので、愛や恋などには目もくれません。
魔法や冒険も、本が絡まなければ手を出しません。
まさに、本狂い。
大好きな本のため。
そして一度失って気付いた、本よりも大切な家族のために。
マインはあらゆる困難も、懸命に乗り越えてゆくのです。