著者のサラ・ペニーパッカーは、児童文学を専門とする作家で、この本も「キツネのパックス 愛を探して」で、帯のキャッチコピーが「パックスはピーターにめぐりあえるのか」とあったので、キツネと少年のきずなを描いた物語だた思って読み始めたところ、まったく違う展開に驚かされた。
哀しい別れ、少年とキツネのそれぞれの決意
少年と父親、そして拾って育てている子ギツネの住む田舎町に、戦争が迫ってきている。
父親は兵士になる決意をし、少年を祖父の元へ送るためトラックを走らせる。
父親はキツネを森に戻すことを少年に命じる。
少年は涙ながらにキツネと別れを告げて去る。
ここからは、キツネの視点と少年の視点での物語が交互に展開していく。
祖父の家に着いた少年は、やはり自分は間違っていたと思い直し、夜中、身近なものだけを持って、キツネと別れた場所へ戻る。
キツネは、捨てられた場所にいれば、きっと少年が戻ってきてくれると信じて待つ。
森へ戻る少年は、一昼夜歩き続けるが、転倒して足を骨折してしまう。
ここで初めて、この物語がハートウォーミングなだけのものではないことを予感させる。
生まれてすぐ少年に育てられたキツネは、野生の中で生きるすべを知らない。
きびしい展開が少年とキツネを待ち受ける
骨折した足で、絶体絶命の少年は、ある家の土地に迷い込む。
そこには不可思議な女性が住んでいる。そっけないのだが、少年の足に湿布をほどこし、松葉杖を作ってくれる。
そして少年を助ける代わりにいくつかの条件をつける。
キツネは、同じキツネの姉弟と出くわす。
姉キツネは、人間の匂いのするキツネを徹底的に嫌うが、弟は無邪気にじゃれてくる。
空腹に耐えられないキツネは、何とか2匹とつながりを持とうとする。
孤高のキツネとの出会いもあり、キツネの中で少しずつではあるが、野生の感覚が蘇ってくる。
少年は謎の女性が手作りした人形で劇を練習することになってしまう。
そこにどんな意味があるのかも分からない。ただ女性は食事をくれ、足の治療もしてくれる。
言葉少ない中で、奇妙な関係が生まれていく。
少年とキツネの再会、そして。
キツネは硝煙の匂いをかぐ。人間たちが川辺に集まり、陣地のようなものを作っている。
危険な匂いしかしない。
弟キツネは、地雷を踏んでしまい、大けがをする。
キツネは弟キツネを助け、人間のテントに潜り込んで食料を盗む。そこには少年の父の姿。
女性に別れを告げ、少年は松葉杖を突きながら森へ急ぐが、その足取りは遅い。
少年も戦争の匂いを感じる。何かが起ころうとしている。
キツネたちは、危険なコヨーテに襲われる。
とうていかなわない相手と必死に戦いを繰り広げる。
少年はキツネの声を聞く、キツネは少年が自分を呼ぶ声を聞く。
絶体絶命のキツネは少年との再会で命をつなぐ。向かい合う少年とキツネ。
しかし、ほんの数日の間に、少年もキツネも成長し、変化していた。
嬉しいはずの再会は、少年とキツネの別れの時でもあった。
まとめ
イラストもついた小説で、ジャンルで言えば児童文学に当たるのだが、その内容は、子供には到底理解できないようなきな臭さとシュールな展開がある。
ちなみにこの小説は映画化が決定しているとのこと。
きっとすばらしい作品になるに違いない。