目次
【T氏の感想】
フランス革命を舞台にした、国王の処刑人の一族『サンソン家』の物語は旧作『イノサン』から連綿とつづられており、血にまみれたその歴史と哀しみが明らかにされてきました。
当主シャルル・アンリ・サンソンとその妹マリー・ジョゼフの姿を通して描く異色のフランス革命史、佳境です。
人の美しさと醜さの共存
『国王の処刑人』として長らく歴史の闇の部分を担ってきたサンソン家の姿を、坂本眞一さんの緻密で美麗な絵で表しています。
貴族の美しさと醜さが混在するフランス宮廷の姿は、日本人の中にあった『フランス革命』=『ベルサイユのばら』の概念を見事にぶち壊してくれました。
贅を凝らした貴族の暮らし、ドレスや宝石といった夢のような世界と、表裏一体のグロいもの、汚いものも余すところなく、まるで臭気が立ち上りそうな迫力で描いているその情景は、この時代のまさにリアルなのではないか、と思わせてくれるのです。
そこに、王のために刃を振るい罪人を捌いていくシャルルの姿と、それに反発して自由に生きて行こうとするマリーの対立が加わり、人が生きるとは一体何なのか、ということを追及しているようにも思えるのです。
『ギロチン』開発秘話
ギロチンは『一瞬にして人の首を処刑するために痛みを感じさせない、きわめて人道的な処刑道具』なのだそうです。
開発者として名前を知られているギヨタン医師がそれを議会に提案し、物語の冒頭で実験が行われているのです。
シャルルは”処刑人”としてその成り行きを見守るのですが。
彼はその処刑道具が出来上がることで誰もが手軽に処刑を行えるようになるのでは、そして、国中に斬首された首が溢れるのではないか、という妄想を抱くのです。
それは、遠くない未来のフランスの姿であり、歴史を知っている私たちにとってはある意味予言なのですが。
彼が理屈抜きで敬愛していたフランス国王ルイ16世の処刑が行われるに至り、そのギロチンによって落とされることになる王の命に混乱していくのです。
血に染まる革命にあだ花のように咲く人々
マリー・ジョゼフ・サンソンは、前日譚の『イノサン』では美しくあどけない少女でした。
その彼女が処刑人としての一族の運命を知り、激しく変貌を遂げていったのです。
この少し前に、マリーは無理やり親同士が決めて娶せられた夫を襲い、自らの意思で子供をもうけます。
その正体は判らないままに仮面をかぶったままに成長した”ゼロ”は、マリーの分身のように処刑場やシャルルの周囲に現れ、人々を翻弄し、また、真理をつくのです。
また、シャルル自身がかつてそうであったように。
彼の弟たちや、息子らも『処刑人』であらねばならない自らの運命に翻弄され、人を裁くより自らの命を差し出そうとする、過酷な状況においやられていくのです。
決して自らのせいではないその生まれに縛られる哀しみが、血塗られた処刑広場にあふれるのです。
まとめ
作者坂本眞一さんはこの作品の中でマリー・アントワネットとその子供たちをピュアな象徴であるような描き方をされています。
近年の研究でその実像がつまびらかにされている王妃マリー・アントワネットは、実は善良で優しい母親であった、との見解もあります。
その王妃と同じ名前を持つマリー・ジョゼフは、かつてサンソン家の任務として、王妃の護衛として付き従った間柄でした。
今、国王が処刑の日を迎え、のちにマリー・アントワネットの斬首が革命のクライマックスになるはず。
その時、マリー・ジョゼフとその子”ゼロ”がどうなるのか。
裏フランス革命史、読むのが怖いような、しかし目がな話せない、そんな物語となっています。
【O氏の感想】
ついにギロチン完成!?
大勢が見守る前でパリの処刑人である、シャルル=アンリ=サンソン達が出来上がったギロチンで斬首刑の実験を行います。
そしてフランス革命にて大きな歴史を刻んだ、フランス国王ルイ16世が処刑されてしまうのかが非常に気になる展開!
斬首処刑機の実験がついにはじまる!
パリの処刑人であり、シャルル=アンリ=サンソンとその息子たち2人、アントワーヌ博士、そしてギロチンの名称の起源となっているギヨタンが見守る中、処刑機の実験がついにパリのビセートル監獄中庭にて執り行われます。
周りにはそれを怪訝そうに見る大勢の囚人たち。
それを気にすることなく、黙々と準備をすすめ、ついに半月刃を取り付けた処刑実験機がシャルルの掛け声とともに、実験用である死体の首元めがけて落ちていきました。
ですが半月型の刃は上手く首に当たらず、多少の傷をつけただけで失敗となりました。
そしてその光景を見たサンソンの次男、ガブリエルは立ちくらみを起こしてしまいますが、長男のアンリはなかなかしっかりしている様子で、刃を落すことに何の躊躇いもなく感じました。
ガブリエルは若き日のシャルルのような印象ですね。
斬首機の刃の形を提案したのは意外なあの人物
シャルルたちがチュイルリー宮殿にて斬首機検討会をひらいているところに、なんとフランス国王であるルイ16世がやってきます。
実際のルイ16世はちょっとぽっちゃりした雰囲気の肖像画が残っていますが、このイノサンRougeに出てくるルイ16世は驚くぐらいの美青年で描かれています。
そんなフランス国王の登場に驚くシャルルたちをよそに、ルイ16世は半月刃の諸さを説いていきます。
刃の形を斜めにすることで、鋭く速く肉に滑り込んでいくのではないかとルイ16世自らが提案をしていくのです。
実際の歴史では、ルイ16世はあろうことか自らの考案した斜め刃のギロチンによって処刑をされています。
王党派だったシャルルは本当に身を引き裂かれる思いだったんでしょうね。
マリーの子供、ゼロは一旦何者?
ルイ16世もとい、ルイ・カペーを処刑広場へ連れていく馬車の中に、シャルルは腹違いの妹であるマリーの子供、「ゼロ」を同乗させました。
ゼロはまだ5~6歳くらいですが、髪をツインテールに結わえており、そこには可愛いリボンを付けられています。
そして服装も女の子らしいドレスを纏っていますが、母親であるマリーの教えから鉄化面をかぶらされています。
7巻の終盤で、このゼロが馬車の中でルイ・カペーの癒しの存在となっていたようですが、馬車から降りる際「マドモワゼル」と呼ばれたゼロが「なんで?」と聞き返します。
きっとそうじゃないかと予想はしていましたが、どうやらゼロは女の子ではなく男の子でしたね。
所詮、男か女なんて意味がない、うまれた時に決められた生き方から解き放たれないと壊れてしまう、とマリーはゼロに教えていたようですね。
まとめ
イノサンRouge第8巻の見どころは、やはりギロチンが完成し、これからどんどん処刑の数が増えるであろう事を予感させる部分です。
それ以外にも、シャルルの次男であるガブリエルが香水職人の弟子ピエールと出会い、別れていく姿も考えさせられる内容となっています。
耽美な絵柄でフランス革命を美しく描いているイノサンRougeのこの先が気になります。